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最高裁判所第三小法廷 昭和63年(あ)453号 決定

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人肥沼太郎ほか三名の上告趣意のうち、憲法三八条違反をいう点は、所論各供述調書の任意性を疑うべき証跡はないから、所論は前提を欠き、判例違反をいう点は、その実質は事実誤認の主張であり、その余は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

所論にかんがみ、職権により判断する。

一  原判決が認定した事実の要旨は、次のとおりである。

1  化学繊維、穀物等の商品取引所に所属する商品取引員である同和商品株式会社(以下「同和商品」という。)は、顧客から委託を受けて行う先物取引に関して、次のような営業方針を採っていた。(1) 勧誘に当たっては、いわゆる「飛び込み」と称し、一定地域の家庭を無差別に訪問して勧誘する方法を採る。(2) その結果、勧誘対象の多くは、先物取引に無知な家庭の主婦や老人となるが、これらの者を勧誘するに際しては、外務員の指示どおりに売買すれば先物取引はもうかるものであることを強調する。(3) そして、右の言葉を信用した顧客に対して、外務員の意のままの売買を行わせることとし、具体的には、相場の動向に反し、あるいはこれと無関係に取引を仲介し、しかも、頻繁に売買を繰り返させる。(4) 取引の結果顧客の建て玉に利益を生じた場合には、一定の利幅内で仕切ることを顧客に承諾させて、利益が大きくならないようにする一方で、利益金を委託証拠金に振り替えて取引を拡大、継続するよう顧客を説得したり、顧客からの利益の支払要求等を可能な限り引き延ばしたりしつつ、それまでとは逆の建て玉をするなどして頻繁に売買を繰り返させる。(5) 以上の方法により、顧客に損失を生じさせるとともに、委託手数料を増大させて、結局、委託証拠金の返還及び利益金の支払を免れる。

2  また、同和商品においては、顧客の売り買いの委託玉の差について、一定割合(約九割)でいわゆる向かい玉を建てて対当する売買をし、相場の動向により発生した顧客の損失に見合う利益が同和商品に帰属するようにしていた。

3  同和商品の取締役や従業員であった被告人らは、相互に意思を通じた上、右の営業方針に従ってKら一八名を勧誘し、誠実に顧客の利益のために売買を助言、指導してもらえるものと信じた同人らから、委託証拠金として現金等の交付を受けた。

二 以上の事実関係に照らすと、被告人らは、前記一の1のようないわゆる「客殺し商法」により、先物取引において顧客にことさら損失等を与えるとともに、向かい玉を建てることにより顧客の損失に見合う利益を同和商品に帰属させる意図であるのに、自分達の勧めるとおりに取引すれば必ずもうかるなどと強調し、同和商品が顧客の利益のために受託業務を行う商品取引員であるかのように装って、取引の委託方を勧誘し、その旨信用した被害者らから委託証拠金名義で現金等の交付を受けたものということができるから、被告人らの本件行為が刑法二四六条一項の詐欺罪を構成するとした原判断は、正当である。先物取引においては元本の保証はないこと等を記載した書面が取引の開始に当たって被害者らに交付されていたこと、被害者らにおいて途中で取引を中止した上で委託証拠金の返還等を求めることが不可能ではなかったことといった所論指摘の事情は、本件欺罔の具体的内容が右のとおりのものである以上、結論を左右するものではない。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄)

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